『Another REAL 車いすバスケ日本代表はいかにして強くなったのか!?』銀メダル獲得までの軌跡を知れる一冊

2021年に開催された「東京2020パラリンピック」で男子車いすバスケの試合を観戦しましたか?
決勝戦でアメリカに惜しくも敗れはしましたが、車いすバスケ男子日本代表チームは史上初の銀メダルを獲得しました。
本書は、井上雄彦さんが描く車いすバスケ漫画『リアル』の担当編集者を中心とした取材チーム「チームリアル」(市川光治・名古桂士)が、車いすバスケ日本代表を20年以上取材してきた内容になっています。
及川晋平(前日本代表HC)、藤本玲央選手や香西宏昭選手を中心に、2000年シドニーパラリンピックから2022年東京パラリンピックまでの日本車いすバスケ界や日本代表チーム、そのチームを支えるスタッフの証言も交えたものとなっています。
東京パラリンピックをきっかけに車いすバスケを知ったという人、以前から車いすバスケを知っている人、誰でも楽しめる一冊だと思います。
それでは、『Another REAL 車いすバスケ日本代表はいかにして強くなったのか!?』を紹介します。
本書の内容
本書がどういった内容になっているのか、本書のカバー「そで」部分に記載されている紹介文を引用します。
東京パラリンピックで史上初の銀メダルを獲得した車いすバスケ男子日本代表“闘魂ニッポン”
敗戦に敗戦を重ねて、日本選手たちは何を想い、何と闘ってきたのか?
フィジカルが違う、バスケ文化が違うと言われてきた日本選手たちが世界と並ぶまでになったきっかけは何か?
その銀メダルへの軌跡に20年以上に亘って追い続けてきた『リアル』取材チームが迫る。
写真家・細野晋司による秘蔵カットとあわせ、チームリアルにしか描けない、車いすバスケの「リアル」がここに!
車いすバスケ男子日本代表の東京パラリンピック銀メダルは、決して奇跡ではなく、20年以上も前からコツコツと積み上げられてきた実績によるものでした。
- 井上雄彦さんによる表紙イラスト描き下ろし
- 井上雄彦さんと前日本代表ヘッドコーチ及川晋平さんの対談を収録
- 日本車いすバスケ界を変えた「Jキャンプ」
- 写真家・細野晋司さんによる日本代表秘蔵カット
- 2000年シドニーパラリンピックからの日本代表メンバーと成績を掲載
- チームを支えたプロフェッショナルなスタッフの証言
試合観戦だけでは分からなかった、車いすバスケ界や日本代表チームのことを知ることができます。
チームスタッフの証言
6位以上を目指したものの結果は9位で終えた、2016年リオパラリンピック。
4年後の東京パラリンピックでのメダル獲得目標に向けて、及川晋平HCは、選手の心技体をサポートするプロフェッショナルなスタッフを集めます。
本書では、下記のスタッフの証言を掲載しています。
- フィジカルコーチ:有馬正人
- チーム栄養士:鈴木志保子
- 褥瘡治療・コンサルテーション:真田弘美
- メカニック:上野正雄
- シューティングコーチ:鈴木良和
- JBA技術委員会委員長:東野智弥
- メンタルコーチ:田中ウルヴェ京
チームを支えるスタッフ目線での話が個人的に惹かれました。いくつか引用しながら紹介します。
整形外科に勤務しながら多くのアスリートをトレーナーとしてサポートしてきた、フィジカルコーチの有馬真人さんの証言。
ローポインターの選手の身体を伸ばして姿勢を良くしたいと考えてぶら下がらせたんです。すると選手たちが口々に腹筋がきついって言い出して、なるほどと思いました。脊髄損傷のローポインターは腹筋が利かないんですけど、ぶら下がると下がっていく腹筋に対応しようという反応が起きて、ブルブル震えて腹筋が使われるんです。ローポインターの体幹強化に効果的なトレーニングになりました。そうやって腹筋に刺激を入れていたのは、日本では車いすバスケだけだと思います。
(フィジカルコーチ 有馬正人)
脊髄損傷者は腹筋が利かないというのは、当時パラスポーツに関わっていて知ってはいたものの、まさかぶら下がらすことで腹筋を鍛えることができるなんて思ってもいませんでした。
また、下半身強化のために両大腿切断の選手にもスクワットをさせていたなどの話もあり、フィジカルコーチが選手と向き合って様々なメニューを考えていたのを知ることができました。
パラスポーツの場合は、選手それぞれ障害の状態が違うことから参考になる資料が少なかったようで、有馬さんがデータを何度も取って考えていったようです。
管理栄養士・公認スポーツ栄養士として多くのアスリートやチームをサポートしてきた、チーム栄養士の鈴木志保子さんの証言。
車いすバスケの選手たちは自分の身体には様々な状況があるから仕方がないと割り切っている方が多いということです。健常者のアスリートが望む良好なコンディションよりも、身体の不安材料をなくすことの優先順位が高い。例を挙げると、脊髄損傷の選手たちの排便コントロールです。練習中に便失禁をすることを恐れて、練習の6〜7時間前にご飯を食べて、そこからずっと食べずに練習する。怖くて水分補給もできないという選手もいました。
(チーム栄養士 鈴木志保子)
アマチュアではありますが、私もパラスポーツへ関わった経験があるので、排便コントロールの話はよく聞いていました。
便のことを気にして食事や水分摂取を控え、ゲーム中に最高のパフォーマンスを発揮できないというのはよくありました。ほかにも自律神経の障害があり、低血糖になってしまうという選手も見てきたので、身体障害があると健常者ではあまり気にしない部分への対処の重要性を感じました。
日本褥瘡学会理事長を務めるほどの褥瘡医療のプロフェッショナルで、褥瘡治療・コンサルテーションとしてサポートした真田弘美さんの証言。
強化指定選手25名のうち、褥瘡の危険があるローポインターは14名。まずはひとりずつ聞き取りをしたんですが、みんな褥瘡に対する知識が不足していました。最初に病院などで褥瘡予防の教育は受けているんです。でも車いすで生活して、自動車を運転して移動して、車いすバスケをやっているということが日常化されると、自分は大丈夫だろうと褥瘡に対する注意や警戒が薄れてくる。
(褥瘡治療・コンサルテーション 真田弘美)
日本代表に選ばれるほどの選手でも、褥瘡に対する知識が不足していた事実に驚きでした。
日本褥瘡学会理事長を務めていた真田さんの力を借り、競技用ではなく生活用車いすのクッションを見直すなど、競技以外の部分でも細かいサポートがあったことに驚かされました。
東京パラリンピック決勝・アメリカ戦をプレイバック
2021年9月5日(日)、東京パラリンピック男子車いすバスケ決勝戦。
本書の第6章では、アメリカとの決勝戦の様子を選手や監督、HCのコメントも交えて振り返っています。

あの激闘の裏側を知ることができるのは貴重です。
日本代表は27対32と5点を追いかける形で前半を終えます。
怜央はロッカールームで手応えを感じていた。
「ロッカーでは『いい出来だよね』とみんなで話していました。アメリカの背中も見えてたし、むしろ『あれっ、アメリカさんどうした?』『意外とてこずってるな、うちの戦略に』っておもってました」
第3ピリオドを46対45の1点リードと、理想的な展開で終了した日本代表。
最終の第4ピリオド残り7分を切ったところで、鳥海連志が得点を決め5点差にリードを広げます。得点を決めた鳥海がガッツポーズを決める中、日本代表のダブルエースは安心していません。
ベンチにいる怜央は厳しい表情を変えなかった。
「怖かったですもんアメリカ。5点差リードしても滅茶苦茶怖かった」
宏昭は危惧していた。
「連志がガッツポーズしたでしょ?まだ何も決まってないし、僕たちができたということは向こうだってできるわけで、何なら向こうのほうが試合巧者であって。だから5点のリードだったとしても、それ以上でもそれ以下でもない、そこに意味はない、という感じでした」
王者アメリカと一進一退の激闘の末、惜しくも敗けてしまった試合後、ダブルエースとして日本代表を支えてきた藤本怜央選手と香西宏昭選手に以下のようなやりとりがありました。
「宏昭、ありがとう」
宏昭は近づいてきた怜央と抱き合った。
「怜央くん、お互いよく頑張ったね」
北京、ロンドン、リオ、そして東京と4大会を共に闘った2人は、13年という年月をかけて銀メダルを手にすることができた。
本書でこの2人の出会いやそれまでの日本代表の軌跡を知っていると、多くを語らないこのやりとりに胸が熱くなってしまいました。
おわりに
車いすバスケ男子日本代表の約20年の軌跡を一冊に収めた本書は、とても内容の濃いものになっていると感じます。
私も2000年から数年間、車いすバスケに少し関わったことがあるので、昔の日本代表選手の名前に懐かしさを覚えたり、チームサポートスタッフの話に感銘を受ける点もありました。
東京パラリンピックの決勝戦を見ていた人にはぜひ読んでもらいたい一冊です。
最後に、本書の「あとがき」の言葉を借りて、締めたいと思います。
この本を読んで、車いすバスケットボールの魅力の欠片を少しでも感じ取ってもらえたら嬉しく思います。
ネット上の反応
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