辻山良雄『しぶとい十人の本屋』感想。自分らしく生きたい人のヒントとなる一冊
東京都荻窪にある本屋「Title」の店主・辻山良雄さんの著書『しぶとい十人の本屋』を読みました。(2024年6月出版)
本書が出版された6月に東京へ行く機会があったので、せっかくなら直接Titleの辻山さんのところで購入しようと思い、Titleにて購入させてもらいました。
インターネットが普及している現在、本屋に行かずに家にいても本は簡単に買えることができます。そのため、書店業界は厳しい状況にあり、いわゆる「街の本屋」がどんどん減ってきています。しかし、それでも個人で本屋をはじめようとする人は増えているようです。
著者の辻山良雄さんは、大手書店チェーンのリブロに勤めたのち、2016年に荻窪に新刊書店「Title」を立ち上げます。しかし、お店をオープンして8年、辻山さんは自分の仕事がわからなくなってきました。そのため、同じように個人で本屋を営んでいる全国各地の同業者に会いに行くといき、今後の生き方のヒントを得るといった内容になっています。
本書には、私の住む沖縄にある「市場の古本屋ウララ」と店主・宇田智子さんも登場。
神奈川県生まれの宇田智子さんは、ジュンク堂書店那覇店オープンに伴い沖縄へ異動。2011年に退職して、同年に「市場の古本屋ウララ」を那覇市の第一牧志公設市場内に開店しています。
大型書店に長らく勤めていて、現在は沖縄という小さな島国で書店をやっている宇田さんに対して、辻山さんの「東京のことは気になりますか?」という質問への回答が印象的でした。
東京にももう三年ぐらい行っていないのですが、新刊書店に行くと、どの本も東京の人向けにつくられていると感じるようになりました。それまで東京でつくられた本は、全国に向けての本だと思っていたんですけど、見ていると「沖縄では通用しないんじゃないかな」と思うものもたくさんあって……。
食べ物やファッションなどの流行の最先端は東京という感覚はありつつも、本に関してもターゲット層は都会の人なんですね。販売部数を上げるには人口の多い首都圏の人たちに買ってもらうのが一番ですからね。
沖縄以外の書店をしっかり見たことがないんですけど、沖縄って地元出版社がつくる「県産本」がすごく多いなと感じます。同じような内容の本を全国的な出版社でも作れないことはないだろうけど、やはり地元だからこそできる細やかな情報というのにニーズがあるんでしょうか。
その土地に住む人たちのニーズに対応できることが、地域の書店が存在する意義につながっていくのかと感じました。
- 走る本屋さん 高久書店・高木久直さん(静岡)
- 市場の古本屋ウララ・宇田智子さん(沖縄)
- 長谷川書店・長谷川稔さん(大阪)
- 誠光社・堀部篤史さん(京都)
- ON READING・黒田義隆さん、杏子さん(名古屋)
- ブック・コーディネーター・内沼晋太郎さん(長野/東京・下北沢)
- 定有堂書店・奈良敏行さん(鳥取)
- 北書店・佐藤雄一さん(新潟)
本書では、辻山さんが旅の合間に書いたコラムも掲載されていて、そちらからも印象的な部分を引用して紹介します。
「これを言えばすぐに売れる」とわかっているとき、わたしはわざとそれを言わないようにすることもある。
限定◯冊しかない貴重な本、人気作家のサイン本、そうした人の消費欲をくすぐるものは、「入りました」と投稿すればすぐに問い合わせがくる。そして数時間も経たないうちにすべて売れてしまい、その本がそこに存在していたことなどウソのように、跡形もない。
辻山さんは、商売上の告知宣伝などをSNSでおこなうことはあっても、本当に大切にしたい自分の考えや思いなどはSNSを使わないそうです。
ネットでの情報発信は簡単にできる反面、ちょっとしたことで誤った内容で情報が伝わってしまうこともあるだろうし、一時的な盛り上がりでお店が消費されてしまうのではないかと考えてしまいます。全国から本屋がなくなっていく反面で個人の書店がメディアなどで取り上げられて盛り上がるのは嬉しいけど、やはり本屋はその地域に自然に溶けこんでいるような存在であってほしいなと思います。
購入後に気づいたのですが、購入特典として「本をめぐるほろ酔いトーク ―俺はあの時、一生分のブロッコリーを食べた―」が同封されていました。
付録とはいえ、とても読み応えのある内容となっています。本書の購入を考えている人は、ぜひ付録付きを購入してはどうでしょうか。
「市場の古本屋ウララ」店主・宇田智子さんのエッセイもあります。