横山北斗『15歳からの社会保障』感想。自分や大切な人を守るための一冊
2022年出版、横山北斗さんの著書『15歳からの社会保障』を読みました。
私が読んできた本で「他の人にも読んでほしい」と思ったものをブログで紹介しているのですが、『15歳からの社会保障』は、ぜひ多くの人に読んでほしい一冊です。
日本には様々な社会保障制度があります。たとえば、「生活保護」「出産育児一時金」「児童扶養手当」など、詳細は知らなくても制度の名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。
日本にどのような社会保障制度が整備されているかを知っているのと知らないのでは、自分自身や家族に何かあったときの困り感が全然変わってきます。なぜなら、行政の手続きは「申請主義」がほとんどで、自分から動かないと利用できないのです。
市役所から『あなたはこの制度が使えますよ』とお知らせしてくれることはほとんどありません。日本の社会保障制度は、申請主義と言って、自分で制度を調べて、条件に当てはまるか理解し、必要な書類を準備して申請手続きをしないと利用ができないんです。
本書では、自分自身にも起こりそうなこと、もしくは自分の知人・友人に起こりそうな10の事例を使って社会保障制度について説明しています。
- ケガで仕事を休まなくてはならず、医療費と生活費に困ったユウジ
- アルバイトができなくなり、生活費や家賃の支払いに不安を抱えているサトシ
- 住む場所がなく、食べるものに困ったシンジ
- 高校生で妊娠し、生活に困ったマミ
- ひとりで子どもを育てることになったマサト
- 発達障害の子どもを育てるジュンとマコ
- 会社でハラスメントを受け、体調を崩したエミリ
- 交通事故で車イスが必要な生活になったノブオ
- おばあちゃんと弟のお世話をしなければならないサクラ
- 家族から暴力を受けているミユキとトモキ
各エピソードは、制度を知らないために生活に困る当事者とその生活をサポートするソーシャルワーカー(社会福祉士)の会話のやり取り形式で書かれているのとても分かりやすい内容になっていると感じます。
5番目のエピソードで、父子世帯となったマサトが市役所に手続きにいったときの描写が印象的でした。
会社を休みづらいひとり親にとって、土日に市役所が申請を受けつけていないのは大変だなと感じた。土日は子どもたちが家にいるから、それはそれでまた大変で、市役所に申請に行くのもひと苦労だなとマサトは思った。
役所へ手続きに行く際はどうしても仕事を休まないと行けなかったりしますよね。手続きをサポートしてくれる他の家族がいればいいのですが、ひとり親世帯だと手続きに行くハードルがさらに高くなりますね。
市役所で手続きが終わったあと、窓口対応をしてくれた職員の南さんにマサトが別の制度について質問をします。それでマサトは別制度について詳しく知ることができますが、そのときのマサトの感情も印象的でした。
南さんは親切な人ではあったが、情報は自分のほうから聞かないと教えてもらえないのだなとマサトは思った。
すべての人がこのような対応ではないですが、必要以上の答えを返してくれないという経験は私もあります。だからこそ、気になったことはどんどん質問するという意識は持っていたほうがいいと思います。
日本が「申請主義」と言っても、制度のことを知らない個人が悪いわけではないと、著者の横山さんは言っています。
わたしたちは義務教育において、社会保障制度の種類や内容、利用方法を教えてもらう機会を経ずに大人になります。ですから、知らなかったために利用ができず、困った状況になってしまうことがあったとしても、それは決して個人の責任ではありません。
(略)
個人が社会保障制度を知ることと同じくらい、いえ、それ以上に、国や自治体が社会保障制度の情報を必要な人に届け、利用するしやすくするための取り組みを積極的に行うこと、つまりは社会保障制度を申請する権利の行使をサポートする施策が重要なのです。
自治体の広報誌やホームページをチェックすると、様々な制度についての情報が掲載されています。しかし、自分が必要としている情報にたどり着くのがとても難しいです。つまりは制度を利用できない可能性があるということです。
だからこそ、多くの人が本書に書かれている社会保障制度を予備知識として頭に入れて、自分や自分の家族、まわりの友人に何かあったときにサポートできたらいいなと思います。
横山北斗さんのnoteでは本書のエピソードを一部公開しています。「どんな感じだろう」と気になる方は一読ください。
>>【書籍の一部を公開③】「高校生で妊娠し、生活に困ったマミ」
【重版5刷になりました】
— 横山北斗 「15歳からの社会保障」(日本評論社/5刷 )発売中 (@hokutoyokoyama) December 20, 2023
「15歳からの社会保障」、重版が決まりました!
全国の中学高校の合計である15,000を目標にしていましたが、刊行1年強で達成することができました。… pic.twitter.com/ZgULpibrmU