読書

村上春樹『アンダーグラウンド』|地下鉄サリン事件を淡々と語る証言の力

ヒージャ
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2024年、東京・神保町の古書店を訪れたとき、ふと目に留まった一冊がありました。

村上春樹の『アンダーグラウンド』。1995年3月20日にオウム真理教によって起こされた「地下鉄サリン事件」について書かれたノンフィクションです。村上春樹さんが当事者への直接インタビューをまとめた作品です。

村上春樹・アンダーグラウンド
村上春樹『アンダーグラウンド』(文庫版)

もともとこの本の存在を知らずに、古書店の棚を眺めていたところ、目に入った「村上春樹」の名前と、文庫本らしからぬ分厚さに驚き、思わず手に取りました。

この記事を書いている2025年は、地下鉄サリン事件からちょうど30年の節目の年。その前年に偶然この本に出会い、読み進めながら節目の年を迎えたことには、不思議な縁を感じます。

沖縄で暮らす私にとって、地下鉄サリン事件は「とても大きな出来事だった」という認識はありました。しかし、首都圏で暮らす人々と比べると、その衝撃や危機感には温度差があったように思います。

当時、私が知っていたのはテレビや新聞といったマスメディアを通じた情報だけ。被害に遭った方々がどんな思いでいたのか、事件現場がどんな空気だったのかは、想像するしかありませんでした。

本書では、地下鉄サリン事件に巻き込まれた人やその家族、周囲の人たちの証言が淡々と綴られています。その言葉の一つひとつが静かに胸に残り、気づけば事件の凶悪さや、オウム真理教という組織の異常さがじわじわと浮かび上がってきます。

声を荒げて訴えるのではなく、あくまでも静かな語り口だからこそ、読む側に強く響くのかもしれません。「知っているつもり」だった事件の輪郭が、少しずつ鮮明になっていく感覚がありました。

本書はページ数も多く、内容も決して軽くありません。内容が内容なだけに、読み進める手が重くなる場面もありました。

それでも最後まで読んで感じたのは、「読んでよかった」という思いです。事件の詳細はネットや書籍で調べれば知ることができますが、被害者の証言から伝わる、その場の空気感や温度は、この本だからこそ知ることができるものだと感じます。

地下鉄サリン事件を扱った本は数多くありますが、多くは事件を客観的に分析・解説したものかもしれません。けれど、本書には実際に被害に遭った方々のリアルな声が綴られています。

事件の後遺症に長年苦しむ人、オウム真理教に強い恨みを抱く人もいれば、特に何も感じない人もいる。同じ事件の被害者であっても、思いや考えは実にさまざまだということが伝わってきます。

事件について知る方法はいろいろありますが、本書のように被害者や関係者のインタビューを通して知るのも、一つの大切な手段だと感じました。

10年以上前に読んだ村上春樹の長編小説『1Q84』。そこに登場する宗教団体「さきがけ」からオウム真理教を連想したことを思い出しました。村上春樹さんがオウム真理教という存在に、何か特別な感情を抱いていたからこそ描かれた設定なのかと、この本を読んだことで、『1Q84』を読んでいた当時のこともふりかえる時間になりました。

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ブロガー
沖縄在住の会社員です。
日々の暮らしの中で気になったことを、少しずつ書いています。
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