寺地はるな『カレーの時間』感想。嫌われ者の祖父と孫の同居物語。祖父の隠された秘密とは?
寺地はるなさんの2022年出版作品『カレーの時間』を読みました。
寺地さんの作品を手に取ったのは本作が初めてで、『カレーの時間』というタイトルに惹かれて手に取りました。
カレーを題材とした料理小説かなと思いましたが、おじいちゃんと孫、その他家族を描いた素敵な作品でした。
それでは、寺地はるな『カレーの時間』を紹介します。
あらすじ
僕の祖父には、秘密があった。
終戦後と現在、ふたつの時代を「カレー」がつなぐ
絶品“からうま”長編小説
ゴミ屋敷のような家で祖父・義景と暮らすことになった孫息子・桐矢。カレーを囲む時間だけは打ち解ける祖父が、半世紀の間、抱えてきた秘密とは――ラスト、心の底から感動が広がる傑作の誕生です。
義景には3人の娘(誠子・美海子・俊子)がいて、娘たちが小さい頃に義景の妻・桐乃は家を出ていったため、義景が1人で娘たちを育ててきました。
義景は何かあるとすぐに怒鳴り、がさつな性格なので家族からは嫌われています。
83歳と高齢で一人暮らしのため、娘たちは義景を施設に預けたいと考えています。
25歳の主人公・桐矢の誕生日会という名目で集まった、娘たちの話し合いの場に、義景が突然乱入。施設入所を勧める娘たちに憤慨します。
しかし、施設入所に反対する義景から意外なひと言が出ます。
「そうや。おれ、桐矢とやったら一緒に住んでもええと思ってんねん」
『カレーの時間』感想
「孫の桐矢視点の現代」と「祖父・義景視点の過去」、それぞれの場面が切り替わりながら物語が進んでいきます。
義景は「昭和の男」で古い価値観を持ったまま。男尊女卑、男は女を守らなければならないなどの考えがあります。
イライラするほどの頑固ジジイです(笑)
頑固で家族の嫌われ者の印象しかなかった義景ですが、物語を読んでいき義景の生い立ちや会社員時代の苦悩などを見ていると、今の義景の見え方が変わりました。
義景は孤児として育ち、親戚などの家を転々としてきて、つらい境遇を過ごしてきました。その生い立ちが義景の価値観を作り上げたのかもしれません。
1970年代、義景が子どもたちと一緒に大阪万博に行ったとき、4歳だった俊子が迷子になりかけてしまいます。
必死で俊子を探す義景の思いが印象的でした。
大人にかわいがられたことがなかった。子どもをかわいがる方法を知らないまま、大人になった。なんで女ばっかり三人も、と何度も思った。でも、「いらない」と思ったことなんて、一度もない。
家族への関わり方が雑だったので、妻や子どもたちから「嫌な父親」の印象がある義景ですが、子どもたちを大切に想う気持ちが読み取れます。
私も自分の子を持つまで、子どもへの接し方があまり分かりませんでした。同性の男の子なのでまだいいのですが、女の子だったら義景のようにかなり悩んでいたかも。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
顔をくしゃくしゃにしている娘を抱き上げた。肩口のところが俊子の涙と鼻水で湿った。でもちっとも汚くない。汚いと感じない汚れがあると、娘たちが生まれてはじめて知った。
無事に娘・俊子を発見したときの義景の思い。「汚いと感じない汚れがあると、娘たちが生まれてはじめて知った」というのは、子を持つ親なら分かる感覚なのではないでしょうか。
本作タイトルの『カレーの時間』は、義景がレトルトカレーの営業をしていたこと、桐矢が作品中でつくるカレーに由来していると思います。
- 夏野菜の素揚げカレー
- ドライカレー目玉焼きのせ
- キーマカレーのサンドイッチ
私は普段はシンプルなカレー、いわゆる「家のカレー」しか食べないので、作品中に出てくるスパイスカレーなどに興味津々でした。
おわりに
寺地はるなさんの『カレーの時間』の感想を書きました。
どういったストーリーなのか知らずに読んでいたので、序盤は戸惑いつつも読んでいましたが徐々にテンポ良く読み進めることができました。
「頑固ジジイ」と思っていた、小山田義景の本当の気持ちを知ったときは感動でした。
内容的に映像化されそうな作品だなと感じました。少しでも興味を持たれたら、ぜひ読んでもらえたらと思います。