読書

伊坂幸太郎『死神の精度』死神が主人公の短編集

『死神の精度』は伊坂幸太郎さんの2005年の作品で、6つの短編で構成されています。

死神「千葉」が、対象の人間に一週間張りついて調査し、死んでもいいと思えば「可」、死ななくてもいいと思えば「見送り」という判断をしていきます。

死神が主人公となっていますが、怖い内容の作品ではなく、死神「千葉」の視点で人間とのやり取りが楽しめる作品です。

人間が事件や事故などで命を落とすのは、死神が「可」の判定を行った結果。しかし、死神は自殺や病死には関与しません。そのため、よく言われがちな「癌という死神に蝕まれて」という表現は、死神にとっては無関係なため憤りを感じるらしいです。

死神と言っても、人間の死のすべてに関与しているわけではない設定が面白いです。

本作品に出てくる死神の特徴はこちらです。

  • ミュージックが好き。人間界ではCDショップに行きたがる。
  • 名前の名字が地名になっている。
  • 味覚は無く、痛みも感じない。眠る必要もない。
  • 人間の形をしていて、対象の人間に応じて外見を変えることができる。
  • 人間の身体に素手で触れると、その人間は気絶する。
  • 死神が調査中の間は、対象の人間が死ぬことはない。

音楽好きという設定は面白いですね。ちなみに千葉は、CDショップで死神の同僚とよく遭遇します。

ちなみに、伊坂幸太郎さんの「死神」シリーズ作品には『死神の浮力』というものがありますが、どちらも独立した作品になっているのでどちらから読んでもらっても問題ありません。

ここからはネタバレな要素もありますので、本作品を未読の方はご注意ください。

それぞれのあらすじと感想

死神の精度

本のタイトルにもなっているストーリー。対象者は、大手電機メーカーの苦情処理部門で働いている藤木一恵。特定のお客からのクレームの電話に困っています。

最初の話ということもあってか、死神の設定などの説明っぽい部分が多い印象です。オチも分かりやすいです。

死神と藤田

調査対象はやくざの「藤田」ですが、話は藤田の舎弟「阿久津」と千葉のやり取りが多いです。やくざ間の抗争で藤田が死んでしまう話ですが、単純なようで予想外の結末になっています。

「調査期間中に対象者が死亡することはない」という設定をうまく利用した話になっています。

吹雪に死神

吹雪で外に出ることができなくなったホテルで次々に宿泊者が死んでいくというサスペンス風な物語。千葉にとっては犯人が誰なのかは関係ないですが、興味本位で探偵のような行動をします。

サスペンスといってもそこまで深い内容でもないので軽い気持ちで読んでいただけたらと思います。

恋愛で死神

調査対象の「荻原」と彼が想いを寄せる古川朝美の恋物語。コテコテな感じで微笑ましく感じる部分もありますが、最終的に「死」が待ち受けていると考えると寂しくなります。

荻原の死と対峙したときの、千葉のサバサバした態度がなんとも言えない感じです。

旅路を死神

殺人犯「森岡」との旅物語。殺人を犯したと言うわりには、犯人らしからぬ行動を取る森岡に違和感を覚える千葉。森岡と千葉の話の噛み合わなさが楽しい作品です。

この作品には伊坂幸太郎さんの別作品「重力ピエロ」の登場人物が出てきます。作品間のリンクが伊坂幸太郎さんの小説の楽しさでもありますね。

死神対老女

物語の主役は美容院を経営する老女。老女は千葉のことを「人間じゃないでしょ」と早い段階で指摘します。千葉が来たことで自分の死が近いことを感じとります。老女は死を恐れるわけでもなく、一番つらいことは「死なないこと」と言います。その理由として、長く生きれば生きるほど、周りの人が死んでいくつらさを味わうからです。

死が近づいている老女が千葉にお願いしたことは「美容院にお客を集めること」。一見、不思議なお願いにも感じますが最後にそのお願いの真意が判明します。

この『死神の精度』という作品は基本的に独立した短編ですが、この物語は「恋愛で死神」のその後の話にもなっています。締めの物語ということもあって、心が熱くなり読んでて嬉しくなる物語でした。

まとめ

本作を読んでいると登場人部のキャラクターや背景に引き込まれてしまい、「見送り」になってほしいなと感じることもあります。しかし、ほとんどは「可」と判断され死を迎えます。それが寂しく感じますが、死について考えさせられる部分でもあります。

「死」をテーマにした作品でありながら、千葉の滑稽さにクスッと笑わされることあり、テーマの割にはあまり重たくなることなく読むことができます。

人間はいつか必ず死ぬもの。長生きするだけが重要ではなく、死ぬまでの間をどう生きたかというのが重要ではないかと感じさせられる作品でした。